最高裁判所第三小法廷 昭和41年(オ)429号 判決 1969年2月18日
上告人
鴫原久兵衛
代理人
石川浩三
岩渕収
被上告人
原圭三
代理人
増渕俊一
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人石川浩三、同岩渕収の上告理由について。
物の賃貸人の承諾をえないで賃借権の讓渡または賃借物の転貸借が行なわれた場合には、右賃貸人は、民法六一二条二項によつて当該賃貸借契約を解除しなくても、原則として、右譲受人または転借人に対し、直接当該賃貸物について返還請求または明渡請求をすることができるものと解すべきである(最高裁判所昭和二五年(オ)第八七号同二六年四月二七日第二小法廷判決、民集五巻三二五頁および最高裁判所昭和二五年(オ)第一二五号同二六年五月三一日第一小法廷判決、民集五巻三五九頁参照)。もつとも、右の場合においても、それが賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときには、賃貸人は、民法六一二条二項によつて当該賃貸借契約を解除することができず、右のような特段の事情があるときにかぎつて、右譲受人または転借人は、賃貸人の承諾をえなくても、右譲受または転借をもつて、賃貸人に対抗することができるものと解すべきである(最高裁判所昭和三二年(オ)第一〇八七号同三六年四月二八日第二小法廷判決、民集一五巻一二一一頁および最高裁判所昭和三九年(オ)第二五号同年六月三〇日第三小法廷判決、民集一八巻九九一頁参照)。そして、右のような特段の事情は、右譲受人または転借人において主張・立証責任を負うものと解すべきである。しかるに、本件記録を精査するも、本件土地の賃借権の無断譲受人である上告人において、原審までに、本件土地の賃貸人である被上告人が右無断譲渡を理由として賃借人である訴外東都日産モーター株式会社との間の本件土地賃貸借契約を解除することができない右のような特段の事情については、何らの主張さえもしていない。されば、上告人が右無断譲受をもつて被上告人に対抗することができないとした原判決の判断は、正当である。所論は、独自の見解に立つて原判決を論難するものであつて、採るをえない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(飯村義美 田中二郎 下村三郎 松本正雄)